テンパリ!(筒井旭、集英社クイーンズコミックス)

テンパリ! (クイーンズコミックス)

テンパリ! (クイーンズコミックス)

 
 僕は筒井旭先生の信奉者である。少女誌において同性愛や近親相姦、下ネタや宗教ネタを鋭い心理描写と抱腹絶倒のギャグセンスで、正統な恋愛物語をベースとしながら見事に描ききった天才である。『青春は痛いっス』(1996-1999)はハチクロ以前に「全員片想いな学園青春群像劇」を完璧に成功させた希有な例であると思うし、『汝なやむことなかれ』(1999-2002)のヒロイン成ちゃんは、僕の好きな女の子オールタイムベスト5に入るくらいに大好きで萌え萌えなキャラクターである。「さしすせそがうまく発音できなくてしゃししゅしぇしょになってしまう、キリスト教にきわめて敬虔な地味系ロリ少女」が、可愛くないわけがない。
『青春は痛いっス』も『汝なやむことなかれ』も、僕が勝手に命名したジャンル「最後には(強引に)丸くおさまる系」漫画の比類なき名作であると思う。ちなみに同ジャンルの代表的な映画は、『バブル・ボーイ』とか『マテリアル・ウーマン』である。漫画だとすぐには思いつかない。
 ところが、である。『汝〜』終了後の筒井旭先生は一気に寡作となり、単行本は『CHERRY』全一巻と『ダメ出し!』全二巻を出したのみである。そんな筒井旭先生の最新刊が発売されていたので、買って、読んでみた。


 リストラされて彼氏にも振られた主人公の女の子が、元彼に紹介されて入社した法律相談事務所の司法書士に恋をする、という、「職業もの」と「恋愛もの」が一緒になっただけのような作品で、一話、二話を読んだところではあんまり面白いと思わなかった。「あああ、これでは普通のヤング向け少女漫画ではないか! 筒井旭先生のかつてのエネルギーはどこへ……」とか思っていたのだが、後半で筒井節が炸裂します。性倒錯キャラが出てきたり、SMネタを使ったどんでん返しギャグがあったりして、初期の爆発的なエネルギー量こそないものの、独特の変態ナンセンスはまだまだ健在。それに、法律をうまく逆手にとったオチの付け方も秀逸なものがちらほらあって快感だし、ちゃんと勉強にもなる。またまた次回作が楽しみになってしまった。このまま筒井旭先生に一生ついていきます! でも初心者は『青春〜』か『汝〜』から読むといいと思う。
『ダメ出し!』も名作ですけどねっ。

(芝浦慶一)