『ぶっころせ!39条ちゃん』試し読み


 ようやく『ぶっころせ!刑法39条ちゃん』の文章が書き終わりました。あと24時間弱で直せるだけ直します。あと表紙作ったり、奥付作ったり、微調整してフォントいじったりいろいろします。ミスがないといいな。
 章立ては、序章、第一章、第二章、第三章、終章という感じになっていて、ページ数は『9条ちゃん』の第二版とほぼ同じくらい。第三章でちゃんと盛り上がるように書けてよかったです。特に(僕のような)知恵院ファンは最後まで読めばそれなりのカタルシスがある(と思います)ので、どうぞ途中で見捨てないでやってくださいませ。
 冒頭のクジラとセックス教の儀式と、第一章はじめのドタバタ去勢シーン、第二章のキチガイ老人が暴れるところあたりが、『9条ちゃん』っぽい感じがあります。あといちいち、クラスメイトたちがバカなのと。
 
 いちおう今回もサンプルをちょっと貼ってみます。こういう文章です。
 ルビはいっぱいつけていますが、以下には反映されていないので読めない字があったらごめんなさい。

「クジラーーーーとーーーー、セックスーーーー」
 横浜スタジアムに集まった、三万人の群衆が叫ぶ。
 ゆっくりと低い、呪文のような声が空間を鈍く震わせる。
「クジラーーーーとーーーー、セックスーーーー」
 両腕を夜空に掲げ、しんなりと腰を曲げて上下に全身を振り動かす。
 スタジアムの中央に向けて、何度も、何度も。
 讃えているのだ。
御神体”を。
 信仰の対象を。
 彼らはクジラを神として奉り、崇める、「クジラとセックス教」の信者たちだ。
 全国各地から、この“儀式”に参加するために集まってきた。
 儀式とは――“クジラとセックス”である。
 スタジアムに横たえられた、濃青色をした二頭の巨大なクジラ。
 それらを取り囲むのは、数十人の教団幹部たち。
 白い装束に身を包み、手に手に松明をかざして、ゆっくりと舞いを舞っている。
「クジラーーーーとーーーー、セックスーーーー」
 信者たちは熱狂的に、しかしどこか機械的な不気味さで、一心に“呪文”を唱え続けている。
 二十回ほど同じフレーズを唱えたところで、声と動きがぴたりと止んだ。
 幹部たちの舞いもほぼ同時に止まり、静寂が訪れる。
 バックスクリーンの巨大モニターに、教祖の姿が映し出されたのだった。
 白装束、白頭巾、そして無表情な白い仮面。頭の先からつま先まですべてを覆い隠したその姿から、教祖の素顔をうかがい知ることはできない。
 教祖は二頭のクジラの目の前にある祭壇の上から、群衆に語りかけた。
「ツイニコンーヤー、ワレワーレー、“クジーラトセックース”キョウダンノー、ヒガンノギシキガー、ジツゲンシマース。コレマーデノミチノーリハー、ラクナモノーデハー、アリマセンデシータネー? ヒトリヒトーリガー、ミズーカラノタダシサヲシンージー、クジーラトノセックースニムーケテー、トリクンデーキター、ソノドリョークガー、ツイニイマー! ミーヲムスブノデース!」
 教祖の熱い言葉に、場内は一斉にわき立った。
(序章)

「けんかだめですう。おろおろ」
 平和主義者の9条ちゃんは、今にも泣きそうな声を出して、その場にへたりこんだ。
「これは喧嘩じゃないわ、制裁よ」
「わあー、やめろやめろ。傷口が開く。いや、まだ閉じてすらない」
「傷口ごと切り取ってあげるわよ、そんな破廉恥なものーっ!」
 マモルの首根っこをひっつかみ仰向けにさせると、膝を落として腹の上に載せる。
「ふぐりっ」
「動けないでしょ。ね? 大人しくして。今からその、まがまがしい憑き物を、あたしがきれいに祓ってあげる!」
「おれは無実だー」
「9条ちゃんにきもちいいことしたんでしょ! うらやま、いや許せない! ほかの女の子に欲情するようなマモルなんて、女の子になっちゃえばいいのよ!」
「女の子になったら、男の子を好きにならなきゃいけないじゃないか、いやだいやだ」
「あたしがいるじゃないっ! 親友になろう? 法が許すなら、け、け、結婚してもいいわ!」
「やだー、やだー、男のままがいいー」
「け、け、結婚してくれるんだったら、やめてあげてもいいけどっ」
「す、する、する、するうううううううう」
「そんな、いやいや言われても嬉しくないわ!」
「どうしろってんだよー!」
「けんかは、だめですってばあああ、ちえいんさあああああんっ」
 突然9条ちゃんが、知恵院の背中に抱きついてきた。
「ちょっ、あなた、ダメよ今あたし刃物持ってんだからっ」
「ちえいんさあん、ちえいんさあん、やめてですううう」
 知恵院の身体を、力いっぱい揺さぶる。
「あ、だめ、だめってば――」
「ちえいんさあああああああああん」
 首に抱きついて、ぐいっ、と引いた。
「きゃっ」
 思わぬ動きに、知恵院の手から読みやすい電のこが落ちる。
 じょりじょりじょりじょりじょりじょりじょりじょりじょりじょり
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
 鮮血。
「だ、大丈夫、マモル?――きゃあああっ」
 知恵院が見たものは、床に落ちて回転し続けている読みやすい電のこと、血まみれのマモルの股間と、母艦から発進したばかりの小型の戦闘機だった。
「ア、アアアアア。アアア」
 マモルは、「ア」しか言えなくなっていた。
「わあ、マモルさんがふたりになったですう」
「そんなこと言ってる場合じゃないわ、ど、ど、どうしよ」
 ――救急車? いや、間に合わないわ。それになんて説明したらいいのよ、去勢しようとしてたら本当にしちゃいましたって? 言えないわよおおおおお! でも、背に腹は代えられない、このままじゃマモルが死んじゃう!
「アアアア、ア、アブアブ、アブアブアブアブ」
「仕方ないわ、9条ちゃん、治してあげて!」
「でもお、さっき、ぜったいにだめっていったですう」
「撤回よ! とりけし!」
「ぜったいって、とりけしできないんですよお」
「だーっ! あんた白痴のわりには頭が固いわねっ! 例外ってもんがあんのよっ、物事には常に!」
「れいがい、ですかあ」
「そう例外!“絶対”が破れる時だってあるのよ。今はその、例外なの!」
「わかりましたあー」
 素直な9条ちゃんは、マモルの伐採された広葉樹をつかもうと手を伸ばした。
「あ――ちょっと待った!」
「どうしたんですかあ」
「さ、先にさわるのは、あたしよ」
「はああーい」
「えっと、その、マモル。さわるわよ。いいわよね。仕方ないんだからねっ!」
「アボバボロボボボ、アボガドロボボ」
 どうでもいいから早くしてくれ、とマモルは言っているようだった。
 ――ど、どっちの手でさわろうかしら。あ、そうだ、いつも右手だから、右手で!
 ごくりと生唾飲みこんで、おそるおそる手をのばす。
 しかしあと数センチのところで、ぴたりと止めた。
「あーーーーっ。やっぱりダメ! ダメよそんなの! いけないわっ。いやいや、でもマモルの命が。そうよね、背に腹は代えられないのよね、あああああっ、でも、ああああっ」
「9条ちゃんが、つまんじゃいますよう」
「だめーっ! あ、あたしがやるわ」
「アボラビルバラブブッブブーィ」
 心を決めて、優しくマモルの二十分の一モデルをつまみ上げ、そっとマモルの股間の上に置く。さすがに、直視できない。
「きゅ、9条ちゃんっ。あたしがこうやって上のほう持ってるから、根元から治してっ」
「おまかせですううー」
 9条ちゃんが両手で根元のあたりをさすると、少しずつ少しずつ、紙粘土が乾いていくように、くっついてきた。
「アアアアア、アアア、はあ、はあはあ。ふいいー」
 それに合わせて、マモルも少しずつ喋れるようになってきたようだ。
「マモル、大丈夫? ごめんね、あたしのせいで」
「はあはあ、ばか、とんま、なんてことをするんだよう」
「ごめんね、ごめんね」
「まあ、わざとじゃないんだし、ゆるす。なおりそうだし。もう、ぜったいにするなよ」
「しない、しないわ! ありがとうマモル!」
「ぜったいは、やぶれることもあるんですよおー」
「破れない絶対も、あるのよっ」
「ええーっ。どんなことですかあ」
「そうねえ、たとえば……あ、あたしの、マモルへの想いとか」
「わああ、すてきですう」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ」
 マモルが突然、大声を出した。
「どうしたのよマモル、痛いの?」
「もうすぐ、なおるですようー」
「ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ、ぎゃあああああっ、ぎゃああああああああああっ」
「なに? なにか言いたいの?」
「ぎゃ、ぎゃく、ぎゃく、ぎゃくうううううううううううっ」
「ぎゃく?」
「逆だよお!」
「えっ?」
 知恵院は、そっとマモルの股間に目をやった。
へその下に、肌色をした唐草模様の小さな風呂敷包みがちょこんと鎮座している。
「あら……」
「ばかっ。あほっ。なんで、反対につけるんだよお」
「わざとじゃないわよっ。べ、別に問題ないでしょっ。お手洗いで困ったりしないでしょっ」
「問題は――ある! あるよ! ばかっ。重要な問題が、あるじゃないかっ」
「なに?」
「それは――その……痛いじゃないか! 勢いよく動かすと、そのたびに、その、つぶれるじゃないか! 地獄の苦しみじゃないかっ!」
「へ? なんのこと?」
「だからその、あの、青春の熱を昇華させるための、あの、放熱の作業を行う際に、その、抜き身の飛び出しナイフをですね、研ぐように磨くように、えっと、するじゃないですか。いや、するんですよ。その時に、つまり、とっても、不都合なんだああああああっ」
 知恵院は、やっとマモルの言わんとすることがわかって、赤くなった。
「そっ、そんなことっ。しなきゃいいだけじゃないのよっ」
「しないわけにいくかっ。ばかばかばかばかっ。はやく直せっ」
「直せったって、だって……もう、治っちゃってるわよ」
「なおしちゃいましたああー」
「ぬわああああああああああああああああああ! たのむっ。たのむから直してくれっ!」
「直すっていうと、つまり、その……もう一度切断を……」
「そういうことだ!」
「死ぬかもしれないのよっ?」
「おれは男だ! 構わないッ! こんな、男なのかなんなのかよくわかんないような状態で生きながらえるより、おれはいっそ死を選ぶぞっ」
「仕方ないわね……」
 ヴィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン
 知恵院は読みやすい電のこをもう一度作動させた。
「いいのね? 切るわよ?」
「やってくれっ」
「9条ちゃん、上のほう持ってて」
「はああーい」
 人さし指と親指でちょこんと頭のほうをつまんで、持ち上げる。
 知恵院は両手で慎重に読みやすい電のこを持ち、風呂敷包みの下からすくい上げるようにして刃を入れていった。
 じょり、じょり、じょりじょりじょりっ。ぶしゅううううう。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
 マモルは断末魔の苦しみのような悲鳴をあげ、再び「ア」しかしゃべれなくなった。
「アアアアア、アアアアアアア、アアアアア。アアアアアアア、アアアアアアア」
「んで、これで、これを逆さにして、と……」
 知恵院が今度は、上のほうをつまむ。
「アオアアアアー! オアアアアアアアアイアーッン!」
 ぐるりと半回転。激痛が走った。
「はい、9条ちゃん!」
「はあああい」
 もちつきのように、二人はリズムよくコンビネーションした。
「二回目ともなると、落ちつきが出てくるわね」
「べてらんですう」
「アアアアアア、はあああー。おれも、二回目だから、余裕がでてきたよ」
「あれ? なんか変ね」
「どうしたですかあ?」
「大きくなってる」
「二回目だからな」
 むくむくと、ピエロが口で膨らませる長細い風船のように大きくなっていく。
 二十分の一モデルだったはずが、十分の一モデルになっていた。
「ちょっ、ちょっと! どこに余裕持たせてんのよっ。なに考えてんの!」
「なんにも考えてないよ!」
「うそだ!」
「うそじゃないよ!」
「じゃあなんで、大きくなるのよ!」
「さわられてるから! かわいい女の子二人にさわられて、大きくなって、何がわるいっ! おれは健康なだけだっ!」
 かわいい、と言われて、知恵院は照れた。
「あ、あたし、生まれてはじめて、言われたかも。マモルに、その、か、かかかっかか」
「ばかっ。かわいいのは9条ちゃんだ、左右は――」
「あたしは?」
「うるさいうるさいっ。見つめるなっ」
「もうすぐ、なおるですう」
「ねえ、あたしは?」
 知恵院の語気が強まる。同時に、手にも力が加わった。
「ちょ、あんまり力入れるな。し、しげきが」
「質問に答えなさいよっ」
 さらに力が入る。
「ああああっ。これは、これはしらないしげきいいいいいいくううう」
「ねえったら!」
 ぎゅっ。
 ズキュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン
「ああううううううううふっ」
 甲高く、情けない声を出して、マモルは彼岸の境地へ達した。
 幾億もの小さなマモルたちは大気の海を天に向かって泳ぐように真っ直ぐ上昇し、やがて力尽きた者から正反対へ向きを変えた。極小の生命の粒子はキラキラと光り輝いてゆっくりと舞い降りていく。窓から差し込む初冬の光ととけあって、虹となりながら。それはきっとわずか二秒にも満たない刹那的な瞬間だったが、永遠を思わせるように神秘的な光景でもあった。
「わああ、虹ですう。きれいですう」
「はうう。あうあ。ひい」
 膝をがくがくと震わせながらもう一つの世界で宇宙の真理と永遠の生命を実感しているマモルの血まみれの股間には、夜空に浮かぶ星のダイヤモンドのように精液がちりばめられている。
「うわあああーい。いちごみるくですう、ひさしぶりですう。いただきまあす」
「だめだめだめっ! なんでも口に入れるんじゃないのっ」
「だってえ、あまくてえ、おいしいですよお」
「甘いわけ、ないでしょっ」
「あまいですよお」
「そ、そ、そうなの? そ、そこまで言うなら、ちょっとだけ、な、舐めてみようかしら」
「いっしょにたべるですう」
 知恵院はドキドキした。
(第一章)

 老人の怪行動はエスカレートしていくばかりだった。割れたガラスを口に入れてむしゃむしゃとやって、血まみれの口でニタニタ笑ったかと思えば、突然ゲロを吐き出してそれらを一挙に洗い流し、人んちの庭先を赤と黄色のチューリップ畑のような色で染めた。そのサイケデリックな色彩とエキゾチックな匂いとを持った芸術的な液体を犬のように這いつくばって舐め、にやっと笑って口いっぱいに含むと立ち上がって家の中へブシューッと吐き出し「えぼら」とわけのわからない音を発す。「ウキャキャキャ」とサルのような鳴き声をあげて隣の家の庭に移動し、物干し竿を振りまわして暴れ、何事かとやってきた主婦をガスガスと殴りつけた。主婦が気絶して反応がなくなるとつまらなくなったのか移動してもう一つ隣のかなり大きな家へ入る。ちょっとした公園くらいに広い鮮やかな庭先、その縁側に座り込んでロマンチックに星を眺めていたお金持ちらしい上品な老婦人の着物を老人は思いきり引き裂き、両の乳房をわしづかみにしてキリキリ絞りながら顔に引き寄せると、自分の鼻水をその先端になすりつけて、それを自分でちゅぱちゅぱと吸った。「あああっ」と老婦人が喘ぐと世にもいやらしく醜い表情をして、老婦人の白髪交じりの頭に噛みつき、何十本かの毛をちぎり取ると、うまそうにわしゃわしゃと咀嚼した。「おたすけを」と言って逃げる老婦人の腕を掴み、右脇でヘッドロックして頭を固定するや、ぶちっと自分の髪の毛を何本か抜いて老婦人の鼻の穴へ突っ込む。「へ、へ、へっくしょーい!」とくしゃみをすると、老人はケタケタけたたましく笑って老婦人を地べたに解き放ち、下を脱いでちんちんを出す。それから「おんだいしゅっしん」と言いながら放尿した。老婦人はここぞと家の中に逃げこんだ。
 四十一人は老人のいる民家の前にまで来て、垣根のすき間から覗き込んでいる。誰も何も言えず、ただ事の成り行きを見守って暗澹たる気持ちになり、何人かは自殺すら考えていた。多くの者は「そのうち警察が来てくれるだろう」ということしか考えていなかった。老人が放尿するじょぼじょぼという音を聞きながら、マモルがハッと気がついて、久しぶりに声を出した。
「やばい、ちんちんが出てる!」
 その時即座に、マモルが何を言わんとしているかを理解したものはいなかった。今さら何を言っているのかとみんな思った。きちがいなんだからちんちんくらい出すだろうと思った。マモルも気が狂ったのかと思う者さえいた。が、数秒経って、次第に気がつき始めた。
「あっ、だめだ、ちんちんが出てる」
「ちんちん出しちゃ、だめ!」
「おじいちゃん、ちんちん!」
「ちんちん、ちんちん!」
(第二章)

「知恵院さん、ぱんつ脱いでっ」
「え、え、えええええーっ?」
「早く! 地球の運命がかかってんのよ!」
「ここで、ですかっ?」
「移動してる時間なんてないわよ! 男は目つぶって! あたしが掻き出してあげるっ!」
(第三章)

「ソロソーロ、ウマレーマース! ワターシトー、クジーラノー、コドーモデース!」
 白い仮面の教祖に応えて、大きな歓声が上がった。
「モウスーグー、クジラニーンゲーンガー、ウマーレマース。ニーンゲーントー、クージラーノー、ユーウゴーウガー、モウスーグデスーヨー!」
(終章)


 まあそういう感じの作品です。